メディアは理解できていないLPGA放映権問題の本質

今回のLPGA放映権についての報道ですが、どうもメディアの見方があまりに幼稚で本質を理解しているとは言い難いので、私の見解を書いておきます。

ファンありき、選手ありきと言いながら、それを隠れ蓑に自分たちの主張だけを報道しているようにしか見えません。個人情報保護法のときにジャーナリストがトンチンカンな主張をしていた時を思い出します。そもそも報道陣はファンのことを正しく理解できているのでしょうか?

まず、何はともあれ、今回の交渉でLPGAが放映権を得たこと、これは当たり前のことでありながら、今まで出来ていなかった、それを実現できた本当に素晴らしいことです。

何か報道を見ると、「説明不足」とか「試合数が減った」などといったネガティブな記事が目立つようですが、物事の本質を理解していないと言わざるを得ません。

女子ツアーにおいて、何もせず今の活況が未来永劫に続くなどということはありえません。
今季で言えば黄金世代らの活躍によってずいぶん助けられたと思います。
一方で、次世代のスターが出てこなかったら、どうなるでしょう?

結果は火を見るより明らかです。

身近なところで見ましょう。男子ツアーの試合数は今季25試合でした。
全盛期からみると無残な試合数です。来季はもっと減ると予想されています。

これは昔のAON、近年で言えば、石川遼というスターが出たことで、「スターさえいれば人気は自然と出る」といった、スポーツ界にありがちな楽観主義がもたらした結果です。

そこで大切なのが、競技団体が放映権という当たり前の権利、担保を持つことなのです。

これがなければ、人気次第、景気次第という経済原則に飲み込まれてしまいます。
そこまで人気や注目が落ちないかとは思いますが、女子サッカーが最たる例です。

協会としての基盤ができれば、ツアーにおける環境整備、選手の引退後の年金等の援助、ジュニアゴルファーの育成、将来に渡る女子ツアーの繁栄につながる礎ができる訳です。

それが、説明不足とか、試合減とか言って場当たり的に攻めるのは間違いですし、滑稽です。

逆に、説明や根回しをしていたら、既得権益を主張するに決まっているテレビ局との交渉そのものが入り口でとん挫していたでしょうし、この短期間の交渉で、試合減を2試合にとどめ、36試合を確保できたことはLPGAとして素晴らしい交渉だったと言えます。

革新を果たすためには、味方をも欺くような奇襲攻撃が最善の選択である場合が、ビジネスにおいても常套手段としてあることを、残念ながら記者、特にゴルフ記者は理解できていません。
・・・ビジネス社会での経験がないから仕方ないと思いますが。

それと残念なのが、選手からもネガティブなコメントが出ていること。

ALBA版がこちら

GDO版がこちら。ALBA版より若干詳しいです。

比嘉選手、有村選手ともに長年こちらのブログでも個人的に肩入れ気味に応援していた選手ですから、このようなコメントが出ることは非常に残念です。

私は有村さんをプレイヤーとしてだけではなく、人間力も高いと評価していたのですが、コメントを見る限りでは、自分たちの今しか考えていないのかと思い、正直、落胆しました。
・・・聞く側のメディアが誘導したという側面もあるかと思います。

熊本や宮城、愛知での3試合の開催に今日現在至らなかったのは残念ですが、それはLPGA側の問題ではなく、相手側の問題。選手で話し合い云々をしていたら今回の成果は出なかったのです。
これはプロゴルファーという立場には限界があり、今回のような難問解決には、正直なところ寄与できる部分はほとんどないからです。

さて、こういった難しい交渉事については、本当の当事者以外に交渉の手の内を明かすことはご法度であり、守秘性についても、残念ながら彼女たちは個人事業主なので、企業に所属している社会人よりも相当軽く考えていると言わざるをえません。

企業によっては、在職中はもちろんのこと、退職後も2年から3年の守秘義務を負わせているところも少なくありません。

個人事業主といえども、彼女たちは協会の正会員であって、しかもトッププロである立場での公の発言ですから、「36試合が確保されて安堵しています。これからも一層良いプレーをお見せできるように精進します」くらいは言ってほしかった。

現在の、そして将来に渡る職場を守ったのは、LPGAなのです。

いずれにしても、LPGAは突破口を開きました。ただし、課題はあります。
私が最も心配しているのが、ガバナンス。

ちょうど今日のニュースで国(スポーツ庁)が各競技団体に介入していくという報道がされました。もちろん各団体での一連の不祥事を受けてのことです。

レスリング協会の例が出ていましたが、あれだけオリンピック常勝軍団を作り上げていながらも、協会の職員は8名のみ。
これですべての業務をこなしている訳ですから、ガバナンスまで行き届くはずかありません。
幸いにしてLPGAでは不祥事というレベルのものは出ていませんが、財政基盤が弱ければ、その懸念は十分にあります。

それから、有能な外部理事も必要です。
相撲協会を例にとれば、理事はみな元現役力士なので、世間とは感覚がずれてしまっています。

LPGAでも同様のことが懸念され、今後自らが主導して協会を運営していくのであれば、今まで広告代理店やマネジメント会社にお任せであったことも、自分たちでマネージして動いていかなければならない場面が出てきます。
そういった場合を考慮して、マネジメントやネゴシエイトで有能な人材をまず確保していかなければならないでしょう。

次のステップで言えば、現時点ではテレビ局には請求しないとしている放映料をいつ、どのタイミングでどのように、どこと契約するのか、効果的なインターネット配信をするために、どのような手法や交渉をしていくことが必要なのか、そういった課題を洗い出し、解決していかなければなりません。

しかし、LPGAは不退転の覚悟で今回の交渉を成功させたと思います。

最悪のケースはツアーそのものが成立しなかったり、LPGA側主張の白紙撤回で未来永劫放映権は自分たちのものにならない、スターが出続けなければ徐々に衰退、そういったケースも十分に考えられたわけです。

今回の結果が、未来の女子ツアーの繁栄につながっていくことを期待します。

コメント