例え戦いに敗れたとしても、その戦いぶりを称賛する表現に、「グッドルーザー」があります。女子ゴルフでは、2019年に来日しツアー参戦をしているペソンウさんには、まさにこの言葉を贈りたいと思います。渋野日向子、原英莉花といった選手と繰り広げた名勝負には、ペソンウさんの好プレーがありました。その称えられる戦いぶりを振り返ります。
2021 樋口久子三菱電機レディス
最終日を前に、首位タイに並んだ、ペソンウ、渋野日向子の両選手。
非常に難しいセッティングの中、本当に白熱したマッチレースを繰り広げました。
各ホール毎にスコアや順位が入れ替わる。
それでも、2打差の首位で迎えた、18番のパー5。
それまでのプレー振りを見ても、ほぼ、ペソンウさんの優勝確率は高いと言えたと思います。
グリーン手前に3打目を運び、バーディーなら文句なく、パーでも優勝確率は高い。
渋野日向子さんは、2オンに成功しても、長いイーグルパット。
もちろん、この時点で、ペソンウさんのボギーは期待できず、渋野日向子さんのイーグルパットが外れたときは、しぶこさん自身が勝てなかったと、半分は思っていたと思います。
しかし、勝負は分からないもの。
それまで精密機械のようにタッチが合っていたペソンウさんのパッティング。
最後の最後でショートパットを外し、まさかのボギー。
2人の決着はプレーオフへと進みます。
そのプレーオフは、スーパースター、渋野日向子さんの劇場。
実力も一流、運も一流たるところを見せてのスーパーイーグル。
勝負に、決着をつけました。
あのイーグルを獲れるのは、本当にスーパースターしかいない。
見事な優勝でしたが、好勝負を演出したのは、またしても、ペソンウさんでした。
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2019 ワールドレディスサロンパスカップ
テレビ中継でもありましたが、2人のマッチレースで思い出すのが、2019年のワールドレディスサロンパスカップ。
3日目と最終日は、同じペアリングで、3人ともがツアー初優勝を狙う選手でした。
この年から日本ツアーに参戦した、ペソンウさん。
前年、日本女子アマ優勝の資格で参戦していた、当時アマチュアの吉田優利さん。
そして、QTランキング40位の資格で、レギュラーツアーに参戦してきた渋野日向子さんです。
しぶこさんは、2018年、ステップアップツアーを主戦場に戦いました。
そのスイングやプレー振りには非凡なものがありましたが、優勝までには至らず。
QTも上位では無かったので、開幕戦は出場権さえなかった、普通の選手だったのです。
結果はご承知の通りの大熱戦。
渋野日向子、ペソンウ、両選手が終盤まで息詰まるマッチレースを展開ししぶこさんが勝ちました。
渋野日向子ツアー初優勝、それが、メジャーということになりました。
思えば、全英女子オープン優勝への道のりはここから始まったのです。
ペソンウさんのプレーも特筆もので、茨城カントリー名物16番の木がなかったら、優勝したのではないかと思わせるものでした。
2019 リゾートトラストレディス
渋野日向子さんとの闘いが記憶に強いかもしれませんが、まだ、名勝負はありました。
原英莉花さんのファンであったら、忘れることのできないであろう初優勝。
2019年のリゾートトラストレディスでも、プレーオフはペソンウさんで、見事な勝負でした。
1打差で迎えた18番のバーディートライ。「最終ホールで、バーディーをとらなければ、プレーオフにはすすめない。絶対、バーディーをとると心に決めていた」という。2メートルをカップイン。控えめのガッツポーズをつくったのは、プレーオフが残っていたからだ。通算14アンダーとして、原英莉花とLPGAツアー初優勝をかけた決戦である。
プレーオフ1ホール目。6メートルのパーパットが残る。が、こん身のパワーをパッティングへ宿す。見事なパーセーブを披露した。
これだけでも勝負の凄さが伝わるのですが、変則プレーオフで、2ホール目は15番パー3。
カップが切られていたのは、グリーン左サイドで池の方向。
ここでもペソンウさんは、ビターンッとバーディーチャンスにつける。
負けじと原さんが、バーディーチャンスにつけ、決めきっての優勝でした。
このときも、ペソンウさんは、勝者である原さんをたたえたのです。
2021 スタンレーレディス
これは記憶に新しいスタンレーレディス。
-10で4人が並ぶ大接戦でプレーオフへ。
メンバーは、ペソンウ、木村彩子、アマチュアの佐藤心結、そして、渋野日向子。
もちろん、渋野日向子さん、久々の優勝を本戦18番から、3回連続バーディーで勝ち切った試合でした。
1ホール目で木村彩子さんが脱落し、3人のプレーオフとなったのですが、実はペソンウさんは、スリリングな展開でプレーオフを戦ったのです。
バーディー必須の18番パー5で、3オンならずで脱落かと思えたところをチップインバーディー。
その力、恐るべしです。
この大会は、アマチュア佐藤心結さんの大健闘、ピン直撃といったショットもあり、興奮もマックスの展開でした。
渋野日向子さん、スイング改造、LPGAツアー参戦など、苦難を乗り越え、1年11ケ月振りの優勝でした。
ペソンウは難しい試合で勝ち切っている
こう書いてくると、ペソンウさんは、負けた印象が強いのですが、しっかりと勝ってもいます。
ツアーは2勝ですが、それは、2019年の、meijiカップと最終戦のメジャーリコーカップ。
両試合とも、セッティングが難しく、実力者が勝つ大会と言われています。
特に2019年は、グッドルーザーぶりが目立ったペソンウさんですが、しっかりと勝っているのは、実力の証です。
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ペソンウ 人柄を表すエピソード
ペソンウさんにとっては、激動のツアー初年度だった2019年。
実は、その性格やプレー振りを表すエピソードがありました。
それは、中京テレビ・ブリヂストンレディスでのことです。
少し長くなりますが、引用します。
今大会でも首位発進を決めてスタートダッシュを切ったが、2日目の9番ホール(パー5)に大きな落とし穴が。
3日間の難易度が12番目というバーディを獲りたいホールで、3打目を左の池に入れてしまった。ここでソンウはシューズを脱いで、靴下も脱ぐとそのまま池へと入りウォーターショット。しかし、このショットは手前のバンカーにつかまってしまう。結局このホールのスコアは「7」と、ダブルボギーで首位争いから後退してしまった。
「ソンウ選手がこちらに歩いてくるシーンから撮影していたのですが、驚いたのはボールのライを見てすぐに、女子の選手では珍しいウォーターショットをすると決めたこと。写真の撮影時間を見直してみると、ボールに向かって歩いている写真とシューズを脱ぎ始める写真との時間はわずかに一分程度。いくつか選択肢がある中で、その決断の早さにびっくりしました」(上山カメラマン)
この後、それ以上に驚きの光景が待っていた。「ソンウ選手はウォーターショットの後、そのまま裸足でバンカーショットの落としどころの確認のためグリーンに行き、バンカーからも裸足で打っていたんです。その後のパッティングではシューズをはいたのですが、靴下をはかずに裸足ではいていました」。なんと、最後まで靴下をはかずにこのホールを終えたのである。
「靴下をはいていると時間がかかってしまい迷惑がかかる、と同伴競技者に気を遣ったのでしょうか。裸足でグリーンを歩く姿を撮影したのはほとんど記憶にありません。裸足でプレーを続けた理由をぜひ聞いてみたいですね」と長年トーナメントを撮影している上山カメラマンも驚く一幕だった。
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ペソンウさんは、自分のミスショットを後悔するよりも、プレーの進行に時間をかけてしまう同伴競技者を思い、この行動をとったのです。
ここにペソンウさんの人柄、ゴルフのプレーへの姿勢が表れていると思います。
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